「オレは精神異常やない」――桜木紫乃が昭和最凶の銀行立て籠もり事件に挑む

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新潮社は、直木賞作家・桜木紫乃の長篇小説『異常に非ず』を4月22日に刊行する。昭和54年、大阪市内の銀行で発生した人質立て籠もり事件を下敷きに、事実の奥に沈む「真実」に迫る意欲作である。

昭和の闇に眠る「真実」。事件が問いかけるものとは

物語は、銀行に押し入り、行員と客およそ30人を人質にとった花川清史の事件を軸に展開する。

事件発生の翌日、大阪府警は香川県で暮らす母・カヨをヘリで呼び寄せ説得を試みたが、母は出発までの2時間、美容室で髪をセットしていた。息子は駆け付けた母との会話を拒絶し、事件は犯人射殺という形で幕を閉じる。

「オレは精神異常やない。道徳と善悪をわきまえんだけや」――男は死の数時間前、そう語っていたという。

母か、女か、社会か。それとも彼自身か

毎報新聞デスクの近藤は、この言葉に引っかかりを覚える。事件は解決したが、何も解明されていない。

そう確信した近藤は連載企画を立ち上げ、取材を開始する。母は問い返し、女は振り返り、記者は掘り起こす。ひとつひとつ積み上げられる証言のなかで、花川の「異常性」という固定された認識が変容していく。

「どんな賢者も犯罪者も等しく女から生まれる」

桜木紫乃は執筆を振り返り、

どんな賢者も犯罪者も等しく女から生まれる、という事実
(プレスリリースより)

に突き当たったと語る。

親と子、男と女を描き続けてきた著者が選んだのは、史上まれに見る人質籠城であり、今なお語られる未解決事案である。

真実は一つではない。語る者の数だけ、その形は変容していく。

桜木紫乃は、事件を語り直すことを通じて、“母”が象徴する何者かとの相克を描き、人間の深層をあぶり出そうとするのだろうか。そうであるなら、裁判記録には残らない魂の真実が潜む深層へと引きずり込む、渾身の一冊となるだろう。刊行が待たれる。

■出典
株式会社新潮社のプレスリリース

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