株式会社新潮社は、岩井圭也氏の最新作『拳の声が聞こえるか』を3月18日に刊行する。
汗みどろで、血達磨になって、やっと拳(おもい)が伝わったんだ。
(『拳の声が聞こえるか』岩井圭也より)
「拳」に乗せられた思いが、強く印象に残る一作だ。

言葉を避けてきた青年が、リングで発見するもの
主人公・五十嵐遼馬は、言葉がうまく出てこない。話そうとすると喉に鍵がかかったようになり、思いは胸の底でくすぶり続ける。
その孤独を支えたのがボクシングだった。地元を捨て、東京で影のように生きていた遼馬が、偶然立ち寄ったボクシングジムで、トレーナーから「ボクシングは対話だ」という言葉を受け取る。
対話ではなく、リング上の駆け引きを通じて、自らの拳で主張する遼馬。拳に思いを乗せる喜びに目覚めていく姿は、言葉によるコミュニケーションが支配するこの時代への、静かな問い直しでもある。
言語も国境も越えて激突する、二人の存在
遼馬の前に立ちはだかるのは、タイ人ボクサー、サクチャイ・プラガヤット。単なる勝敗を超え、互いの存在そのものを懸けた衝突へと発展する拳の交わりが、この小説の大きな見どころとなっている。
「永遠にわかりあえないのに、それでも理解しようと試みる姿」を描きたかったという著者の言葉が、主人公のパンチに重なるように響く。
ジャンルを越境してきた著者の、新たな到達点
『永遠についての証明』で野性時代フロンティア文学賞を受賞してデビュー以来、SF・ミステリ・歴史小説と多様なジャンルを描いてきた岩井圭也による、初のボクシング小説。
格闘技に精通した作家・夢枕獏が帯で力強く推薦する同書は、青春小説としても人間ドラマとしても読み応えがある。

