「かわいそう」は支配の蜜。武田綾乃が暴く、無自覚な悪意と傲慢の深淵

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新潮社は3月30日、武田綾乃の短編集『可哀想な蠅』の文庫版を発売した。

「かわいそう」という言葉の、暗い引力

武田綾乃は2013年、『今日、きみと息をする。』で作家デビュー。吉川英治文学新人賞受賞作『愛されなくても別に』や、アニメ化で知られる『響け!ユーフォニアム』シリーズなど、話題作を手がけてきた。

今回文庫化された『可哀想な蠅』では、SNSや職場、友人関係といった身近な場を舞台に、「かわいそう」をキーワードとする4つの物語が展開される。思いやりにも聞こえるこの一言は、ときに相手を見下す視線や、自分を守るための冷たい距離感へと変わる。

同作は、そうした感情の危うさを、ダークでビターな味わいとひねりを利かせた展開の中で浮かび上がらせていく。

ネットの悪意と人間の“飼育”本能

表題作の主人公・芽衣子は、SNS投稿がバズったことをきっかけに、粘着質なアカウントの標的となる。

だが彼女は相手をブロックするのではなく、よく吠える動物を「飼う」ような感覚で観察し続ける。

哀れみと傲慢さが入り混じるその視線の先に、思いがけない結末が待つ。匿名の悪意を描きながら、見ている側の残酷さにも光を当てる構図が印象に残る。

日常に潜む負の感情をすくい上げる4篇

収録作は表題作に加え、「まりこさん」「重ね着」「呪縛」の4篇。

職場、家族、友人関係といった日常に潜む負の感情を、安易な共感に流れない筆致で切り出す。

解説はフリーアナウンサー・俳優の宇垣美里。毒々しくも美しい食虫植物と愛らしい子猫を描いた装画は、木原未沙紀による描き下ろしだ。

読後、目を背けてきた負の感情が、背筋をじわりとざわめかせる短編集である。

文庫版の定価は693円。電子版も同日配信されている。

■出典
株式会社新潮社のプレスリリース

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